若者の映画離れ
僕がふと、自分がこれまで十年以上続けてきた趣味についていろいろ考えたのは、ある昼下がりに友人と喫茶店で話していたときだった。友人のこの一言が始まりだった。
「この間、シネ・リーブル池袋ってとこに行ったんだよ。あの映画館自体の、作品に対する姿勢は良いはずなんだけど、映画の予告編が終わってそのあとにCMを差し挟んだりするんだね。ああいうの初めてみた」
僕は思うことがありつつもうなずいた。
「普通は広告、予告、とつづいて本編だもんね」
「サンドイッチ状になってんのね。たぶん遅れて入ってきた人でもCM自体は目に入るんじゃないかな」
「パルコやハコ自体と何か関係あるのかな?アレ」
「ないんじゃないかな。車の広告だったし」
僕ら二人はしばらく黙り込んだ。喫茶店内はスピーカーからの鍵盤の音色と食器のかすかにこすれ合う音だけが響き渡っていた。
しばらくして友人が話を切り出した。
「ところでさ、この間『ヘラクレス』のジャパンプレミアイベント、あったじゃん」
「あったあった。招待客が招待状を見せたら満席だったってんで入場お断りされたってツイートのあったやつ」
「そう。定時まで来るなってガイドラインに従ったら、定時より先に来ていたルール無視のヤツらを先に入場整理してたやつな」
「これまたアニサマ徹夜組優遇措置みたいなことをよくもまあ……」
「で、一方でこの『ヘラクレス』を配給するパラマウントジャパンのスタッフは追い出し措置をやっておいた傍らでロック様をレッドカーペットで見てはしゃいでたとか」
「行ってないからわからないけど、これは誇張表現じゃないかな。あとこのスタッフは取材か会場整理の担当だったから絶対こういうことが起きてたって知らなかったろうね」
「しかし、一般客をプレミアに呼ぶってふつうお客さんの口コミを誘発するためのイベントじゃない。そこをないがしろにしてどうするのって」
「中途半端に使えもしないDM機能使ったのが問題なんじゃないかな。もうアナログに当日先着順とかアニメみたく有料試写にすればよかったのに」
「終わったことは仕方ないけど、パラマウントってこれ以外にも前科あるよね。『ヒックとドラゴン』とか『スター・トレック イントゥ・ダークネス』とか」
「“トゥース”の話はやめるんだ!」
「おキツネ様もとんでもない負債を背負わされてねえ。あと、字幕興行、なしにもしようとしてたよね(結果的に全国3館それも公開当初から2Dのみで回数も1日2回以下で興行された)。あの名前の変更考えたやつって今でも会社にいるんだろ?」
「そこまではわからないよ。しかし『シュレック』『カンフーパンダ』『マダガスカル』以外のドリームワークスアニメを冷遇してたのは思うところがあるなあ。吹き替えをちゃんと前作準拠で作ってるのはエライと思うけどさ……」
「それが当たり前なんだよ。ディズニーとかねえ、なんだよ、米倉涼子と竹中直人って」
「僕は『アベンジャーズ』字幕でしか見てないから……」
「あと忘れちゃいけないけど、『トランスフォーマー』」
「あれ「日本のおもちゃがスピルバーグの手でなんとか」って言っておきながら、タカラと東映の『戦え!超ロボット生命体 トランスフォーマー』のこと、ひたかくしにしてたもんね」
「名前についてはこの場合は原作準拠にしてるってことで許すけど、だったらせめて声優だけアニメ版準拠で集めてほしかったよな。玄田徹章さんだけ呼んでも意味ないじゃん!」
「あれについてこだわる必要あるの?TFこそ出てくるけど基本下ネタのコントじゃん!アレ!しかもTFの本筋とからまないティーンの恋愛(のちに失恋)はさまれるし!オートボット全員集合まで退屈だったじゃん!
(でも、正直あれのおかげで『トランスフォーマー・ザ・ムービー』が、『ロストエイジ』のおかげで『トランスフォーマー・ジェネレーションデラックス』って本が再販されたから実は感謝してるところもあるんだよね。これについては素直にありがとうって)」
「TFについては本編込みでいろいろ思うところがあるね。2のキ○タマは笑ったけど。1作目の脚本、スタトレ11(『スター・トレック』)、12(『~イントゥ・ダークネス』)の人と同じだろ」
「そうだね」
「で、『スタトレ12』のコピー」
「“人類最大の弱点は愛だ”ってやつだね」
「あの本編に愛なんて要素あるのか?」
「広義的に見れば、序盤のテロをやる父親の黒人だったり、カーク×スポックだったりってつもりらしいけど、あれ愛ってより友情だよね」
「あ、ごめん、ちょっと考え直す」
「何だよ君。それにあの映画のメインテーマや行動原理は愛じゃなくて復讐でしょ? あと『カーンの逆襲』のレスポンド」
「スポックが命を賭してカーク船長を守るってあれ。逆はやめてほしかったかなと。あれはバルカン人の論理的行動を超越したところに感動があるのに!」
「君、もう宣伝に対する文句じゃなくて本編の文句になってるじゃない」
「仕方ないだろ、見ていて歯がゆかったんだよ!」
「まあ、怒りとかそういう気持ちはわかるけど、せめてオピニオン組み立てようぜ。君人の話に流されすぎだよ」
「まあ、あと望むことと言えば『ヒックとドラゴン2』の公開かな」
「一応吹き替え版はもう制作済みなんだよね。美菜子ちゃんのアスティ、聞きたいなあ」
「いや、とにかく劇場で見たい。お前と俺とで1作目は5回しか映画館で見られなかったんだから」
「署名運動、実るといいなあと心から思うけど、後ろ盾がないからねえ。『キック・アス』『ハングオーバー』『ホット・ファズ』は町山さんと映画秘宝っていう強力なバックアップがあったけど、これは別に秘宝向きじゃないし、町山さんは「ファンタジーなんて屁の足しにもならない」って名言を残されてる人だしね」
「怪獣映画が好きならおもわず射精しちゃうようなカット満載だったけどな。マジックアワーのライティングに音楽だけ流して怪獣にそっと触れるって静謐なカットを醸したり、マグマの中からT-REXみたいな巨大なドラゴンが出てきて丸のみしたり、今までの怪獣映画にありそうでなかったシーン」
「君の特殊性癖に関してどうこういうつもりはないけど、映画館で僕の横でオナニーはやめてくれよ」
「比喩表現てやつだよ!何ならガチでお前でヌいてやるぞ!」
「いいけど、やるなら自宅でやってくれよ。ここ喫茶店だからさ……」
二人は黙り込んだ。そして、妙な視線が喫茶店内の客から釘づけであった。
「店を出よう。他の話はまた家に帰ってからしよう」
「Alright my meister.」
「これ以上やるとなのは民にもTFファンにも怒られるで」
こうして僕らは、あらぬ疑惑をかけられたうえで喫茶店を後にした。そろそろ誰もいなくなった家で、改めて二人で談笑だ。