Kokone-works

好き放題に、「お酒を飲んだ勢いで」。 サークル活動、はじめました。「ここだけネバーランド」というサークルの主催です。 

たまこラブストーリー(山田尚子監督)

すばらしい。 冒頭、日が昇る大気圏外の地球。そしてリンゴを落とすもち蔵へのジャンプカット。俯瞰からの主観的視点へのダイナミックな移動。ここに猿人からホモ・サピエンスの進化に至る「人類史」を見出すのは傲慢ですか?(2001年宇宙の旅のようですね。あるいは個人的な話を地球崩壊にまでもっていったトリアーや『EOE』や、別んとこで『イデオン発動編』とか。いや、この映画で地球は滅びないけどw) ◇ 『けいおん!山田尚子監督の最新作。この人の作り出す画は異常です。なにせ、画から「ニオイ」が漂ってくる。この「ニオイ」というのは、『オトナ帝国の逆襲』でいうところのそれと全く同じもので、我々にノスタルジーの産物でしかないものを「本物の世界」と錯覚させるニオイですな。 つまるところ、キャラクターの一挙手一投足だったり、自由帳のらくがきにあるようなイラストを意図的にちりばめたり、きょうびカセットテープなんて時代を感じさせるアイテムをつかったり(そしてそれがトリックのひとつだったり)といった小道具の使い方や、時間経過とともにライティングを細かく調整したりとか、アニメだと余計に手間のかかるような気遣いでしょう。(ちなみに『けいおん!』は2011年の映画の年間総合ベスト3に入れるくらいには大好き) ◇ 『けいおん!』の主要スタッフ3人(山田尚子監督×堀口悠紀子総作監×吉田玲子脚本)が再結集して制作されたオリジナルアニメ『たまこまーけっと』が原作。たまこを軸に商店街の人とのふれあいと、本作に併映される短編『南の島のデラちゃん』のトリ、デラとのドタバタ喜劇をコミカルに描いた作品でした。 本作は、そのコメディリリーフとして立ち回っていたデラの不在というものがいかに物語に影響を与えるかが殊更に強調されています。 たとえば、いつもなら、デラがポエムのひとつも言ってものの30分で終わっていた話も、80分かかっています。これは決して間延びしているわけではなくて、自分たちがある日突然思春期のまっただ中に突入して、いままで経験したことのない断絶や悩みを経験した時、立ちふさがって考える時間に比例しているように思えますね。アダムとイヴが裸であることをはずかしがるように。(銭湯でのエンカウントであったり、ずぶ濡れになるのはその象徴であるように思う)。いや、でもみどりちゃんを蛇の役回りっていうのはひどいか……。 いままでできていたことも急にできなくなってしまう。さながら『魔女の宅急便』でキキが飛べなくなってしまったように。なればこそ、彼女が「女神」の力を借りて立ち上がるのも必然である。ように思えます。 ……ほんとうに適当に書いたけど、本家の物語と違って、この始祖的な物語をとりまくミソジニーなどというくだらない価値観から完全に脱却できてるってのもすごいなあ。女性メインで作られた作品ならでは。 ◇ アナログ的な小道具が、商店街のひとたちをとりまく世界の象徴であり、また、心理的な情景になる、というのは、さすがは山田監督……。そして、円環構造を延々と描いていた『けいおん!』から脱却して、さらに熟れた演出になってる……。