Kokone-works

好き放題に、「お酒を飲んだ勢いで」。 サークル活動、はじめました。「ここだけネバーランド」というサークルの主催です。 

Dangal(原題)(ニテーシュ・ティワリ監督)

昨年の暮れに本国公開され、世界中で大ヒットを記録しているインド映画(日本公開は残念ながら未定)。インドのアカデミー賞であるところのフィルムフェア賞・作品賞も受賞したこの映画、運よく訪台中に鑑賞できました。原題「Dangal」は「レスリング」の意。台湾現地では封切1か月たつというのに朝一の回でいまだにほぼ満員でした。最高に面白かったです。

内容は、実在するインドの女性レスラー姉妹、ギータ・フォガットとバビータ・クマーリの半生を描いた作品。近年挑戦的な作風の映画に数多く出演する演技派スーパースター、アーミル・カーンが二人の父マハーヴィル・シン・フォガットに扮します。

トーリーのあらまし。(前半のみ記します)

ハリャーナ州ビワーリ地区バラーリ村。
マハーヴィルはかつて名をはせたレスラーだったが、貧困を理由に引退し手に職をつける道を選択した。レスラーの夢は男が生まれたときに後継させようと考えていたが、妻との間に生まれるのは女の子ばかり。3人目の子供も女の子であったとき、彼はその夢をあきらめる。

ある日、彼の長女と次女、ギータとバビータが、なにかと世話を焼いていた近所の男の子オムカラと3人で遊んでいる最中に、男の子2人にからまれる。マハーヴィルが駆けつけるとあざだらけの男の子2人。オムカラがやったのかと問い詰めるが、ギータとバビータがやったという。なぜこうなったのかを彼女らが説明するうちに、マハーヴィルは娘2人をかつての念願だった後継にしようと考える。妻からは大反対。マハーヴィルは「一年続けて見込みがなかったらあきらめる」と説得。ギータとバビータはその日から父と毎朝5時に起床し町内をランニングし、筋トレに励むこととなる。この村には女性レスラーのいるジムがそもそもないため、マハーヴィルは自分の畑の一部をつぶしてリングを作る。

トレーニングは過酷で、同年代の子が普通に食べているおかしを食べることも人形遊びも許されず、授業も眠気とトレーニングの疲れでついていけない2人は不満を募らせる。また保守的な田舎町では彼女らのやっていることは異端であるがゆえに笑いものにされるばかり。学校でもそれが原因でいじめられたりする。
反抗に目覚ましをマハーヴィルの知らない間にいじくったり、母の取り計らいで結婚式に連れて行ってもらったりするが、当然それがマハーヴィルにばれるや怒りを買う。
あるとき2人は花嫁に泣きながら「かれが私たちの父親でなければよかったのに」と漏らす。すると花嫁が「私は私の父が彼ならよかったと思う。あなたたちを(女ではなく)ひとりの人間としてみてくれるから」……
この家父長制の根強い地域にあって、女性は将来は家事に精を出し男を支える役割に就くのが当たり前であった。レスリングは二人がそんな道から抜け出られるかもしれない希望であった。
マハーヴィルも二人の気持ちを理解しなかったことを悔いて、ごちそうであった鶏肉を娘ふたりにふるまうが、菜食主義者の妻の怒りをまたも買ってしまう。ギータとバビータはふたたびトレーニングに精を出すこととなる。

やがて試合を申し込む段になるが、多くの興行主は、観客は女性レスラーの試合など見たがらないと歯牙にもかけない。だがある興行主が性的要素を打ち出せば客集めができると思い立ち、ゴーサインをだす。
そして試合当日。この試合に勝てば賞金が出る。ギータが男子4人のうちだれかと試合を組むことになる。賞金欲しさに握手(試合)を求める男の子たちのなかにあって、ギータはそのなかでも(手を差し出さなかった)最も強い子を選び、善戦するも負けてしまう。ギータはその善戦をたたえられ、特別賞金を手にすることとなる。それから二人は幾多の試合を勝ち進み、村中から栄誉を称えられる。そしてギータはインドのスポーツ学校の名門スポーツ・オーソリティ・オブ・インディア(NIS)へ進学する。一年後、バビータもそのあとを追う。二人は在学中も父の教えを忘れることはなかったが、ギータはここである壁にぶつかってしまう……。

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山と谷あり、そして師弟の愛とみずからの尊厳を高らかに描く王道のスポーツ映画であり父と子の話ですが、インド映画としてはかなり踏み込んだ凄いことをやっています。
スポーツ映画の物語のひな型は「はみ出し者が努力の末に栄光と尊厳を勝ち取る」ですが、それを保守的な村から女の子が自立する話に当てはめています。ついに(『Chack de India』も挑んでいましたが)フェミニズムがテーマである作品の成功例がインド映画に生まれました。

あと後半の展開でよくありきたりと批判されるのですが、たいていのインド映画の家族ものは最後にだいたい和解などの展開をもってくるのでかならず家父長のもとに集合して終わるパターンが多い(と見受ける)のですが、今回はそれにちょっとした変化球が加えられています。大丈夫、前半のテーマを昇華させる素晴らしいものです。

ということでアーミル・カーン主演作はまたも万民にお勧めできる傑作でした。日本公開されることを祈ります。

しかしアーミルの役作りは毎回すごいです。今回父親役を若かりし頃と中年期にわたって演じるのですが、筋肉隆々の若々しい前半から、後半白髪交じりのでっぷりしたぼて腹な役柄、本当に同一人物かよと驚かされます。齢50過ぎてこういうことができるなら、私ももう少しがんばって生きてみようと思います。